わがはじ!

めんどいオタクのブログ。同人誌もやってるよ。

かつてそこにガルテンというバーがあって。<アキハバラ雑感>

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ブラタモリ」というタモリがひたすら散歩するNHKの人気番組がある。確かもう6年から7年ほど前だっただろうか。番組開始当初、秋葉原が舞台になった回で、タモリがそのまとめにこんなことを言ってた。

 

秋葉原という街は、変化を恐れない街なんだ」と。

 

その通りかもしれない。戦後、須田町周辺のラジオパーツ露店から始まり、青果市場などで栄え、徐々にトランジスタラジオやレコードでお馴染みとなり、さらに専門性の高いテスターや電子工作、そして黎明してくるPC文化を迎え、必然的に萌えという概念を飲み込み今の姿に至っている。ことのほか「趣味」の分野において、東京の中でも常に最先端を走っている印象が強い。そしてその回転は恐ろしいほどに早い。気づけば怪しい店が無くなり、その跡にも怪しい店が商売をしている。この街を見ていると、諸行無常という言葉を常に実感させられるのである。

 

そして思うのだ、多分変化を恐れているのは、僕らのほうだと。

 

先週、湯島通り沿い雑居ビルの一角。神田明神下、秋葉原の端にあるBAR秋葉原ガルテンが、7年の歴史に幕を閉じ閉店した。僕も気づけば学生時代からお世話になったお店で、6年ほどの付き合いとなる。顔を出した当初、このお店のマスター栃棚氏は朴訥とした感じで、正直あまり快く思っていなかったことを、今更ながら思い出す。

 

当時はまだ僕もメイドカフェによく通い、JAMやメイリッシュあたりに顔を出していた。要はランチが安く食べられる処に通っていたのである。そんな折、他の常連さんから紹介を受けたのがこのガルテンだった。僕も当時そんなメイド喫茶通いのわかりやすいタイプの童貞だったもんで、そもそもバーなんて縁がなく、雑居ビルの3Fという厄介な立地も手伝い入りづらいことこの上なかった。

 

ただ、僕も気づけば社会人となり。どうしたって世の中に対するヘイトとうっぷんが溜まってくる。それに対しては、もう日々淡々と酒を飲むしかないのである。そうして徐々にガルテンに顔を出し続けているうち僕も居心地がよくなってきた。するととうとうマスターから声をかけられる。

 

「君のツイッター見てるけど、面白いよね」

 

この言葉をきっかけに、タガが外れた僕とマスターはそれ以降いろんなことを話し合った。秋葉原のこと、音楽のこと、アニメのこと、社会のこと、乳輪と乳首のデカい女のこと、新橋トラストクリニックのこと、飛騨の平湯温泉のこと、サイバーパンク小説のこと、共産圏のパンクロックはマジでヤバいこと。書いてはみたが正直、SPAと宝島を足してそのまま放置して発酵させたような内容がほとんどだった為、詳しくは全然覚えてない。酔ってたし。

 

冒頭に書いた通り、このお店で僕は多くの時間を重ねた。すると気づけば、ガルテンの常連さんたちも仲良くして下さっていた。ほとんど、というかほぼ全員年上だったけど、まず敬語を使うに値しない人たちだったので、素晴らしい時間を過ごすことが出来た。春にはお花見。冬には皆で飲んだくれて神田明神へ初詣。バカ騒ぎしすぎて、色んな方面に迷惑をかけたのも懐かしい。これで女子がいれば完全にリア充である。だが悲しきかな、ガルテン客層の女子率は広沢の打率以下なのだ。寂しいおっさんが、お互いの主義主張で殴り合う、そんな愉快な飲み屋だったと思う。

 

ただ、そんな低打率が逆に功を奏したのか、僕はこのお店でとある女の子に恋をした。しかも大恋愛と勝手に思っている。デートもして、3度告白して、3度フラれたのだから。結局、功は奏してないんだけど、多分、これからこんな経験をすることもないと思う。マスターからは「バーで恋愛しようなんて男はバカだ」とそういわれた。僕もその通りだと思う。でも、ここで僕は本気で恋をしたんだなと。女々しいような、気持ち悪い未練たらたらのおっさんのような、そんな感慨に耽りつつ、先週ガルテンでの最後の1杯を頂いた。

 

色んな経験と、知り合いをこのお店で作らせてもらった。正直、マスターとは今後も飲んだり、何かしら別の事で繋がっていくだろうから、個人の繋がりという意味で寂しいという感情は湧かない。でも、このガルテンというお店が、ここにあったこと。そしてこのカウンターで多くの人と話せた事を絶対に忘れたくないものである。

 

秋葉原というのは先から言っている通り、とかく変化していく街だ。この10年。何軒もの馴染みの店が消えていった。大きくは、ラジオ会館アキハバラデパートに始まり、ラーメン屋、書店、エロ同人委託店、コスプレ衣装屋、ブルセラアダルトグッズショップ・・・それらの閉店の報を知る度、僕はなんとも言えない感情に支配された。そして何がツライかと言えば、その存在は自分の記憶からも消えていくのである。

 

ここまで回転の速い街では、前に何があったのか忘れることも多い。あれ、ソフマップの前って。まんだらけの前の土地って。どうも思い出せない事が増えてきている。そんな移ろいゆく街で、最初に述べた通り僕は変化をどうしても恐れてしまう。このガルテンというバーが閉店したことは、先にあげた馴染みの店のどの衝撃よりも僕にとっては大きなことだった。秋葉原という土地へすら、愛着が薄れていくようで不安すら感じている。

 

しかしながら、こんな事を言っては別の店のマスターに怒られてしまう。まだまだ行きつけのお店はあるし、きっと見つけられていない面白い店もある。そして、秋葉原という街も、常にきっと次の何かを孕んでいる。そう信じたい。

 

ガルテンが閉店する。その選択肢をマスターがとったことにより、自分自身の内向的な、欝々しい感情に喝を入れられた気分だ。過ぎる今を忘れる事に怯え、過去に縋りつく自分の姿勢に改めて気づかされた思いがする。

 

先月27日。ラストパーティの際に常連の方々と交わした「また、どこかで」という挨拶。それは、ひとつの店からそれぞれが、また新しい一歩を踏み出していく姿のように映ってしまい、帰り際ちょっぴり泣けてきた。寂しいと感じる時は、自分もどこかへ踏み出して、きっとまた新しいものを受け入れるべき時なのだ。そう言い聞かせながら、秋葉原という街を再度、愛おしく感じた今日この頃でした。本当に7年間、お疲れ様でした。ありがとう。