わがはじ!

めんどいオタクのブログ。同人誌もやってるよ。

僕らはそろそろ思想を持つべきなのかもしれない。<米大統領選を経て読むべき本を考える>

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あまり触れないほうがいいかなと思ってはいたけれど。考え事が溢れすぎたので整理がてら書くことにする。

 

・「マック赤坂以下の大統領」

アメリカの大統領選の結果が出る数か月前のことだ。日本で働いているアメリカ人の友人に「実際、トランプって米国ではどういう感じなの?」と尋ねた。すると「いやいや、ないでしょ。人妻喰いたいって平気で言うヤツだよ?マック赤坂が首相になるほうがマシだよ」と返ってきた。なるほど。これは、ないな。そう思っていた。

 

一昨日。そのマック赤坂氏以下の候補がアメリカでリーダーをとる事になった。僕はじめ日本人の多くは「流石にあんな発言を繰り返している人間がトップをとるはずがない」と考えていただろう。日本であんな事言ったら爪はじきところの騒ぎではない。

 

まぁ、そんな衝撃的な事が起こったわけで。恐らく今日は過去で一番、ネットニュースやコラムを眺めた1日だった。学者やライター、アナリストたちがこれからの世界の展望についての持論を展開し、コメントで議論が交わされる。上下院でのねじれ解消から経済的に希望的観測を持つ人。特定宗教の蔑視やアジア軽視の視点から日本や国際平和の危機を説く人。そもそも米国の衆愚政治を嘆く人、あるいはその衆愚というインテリ層の思い上がりを叩く人。

 

しかしながら、どんな話であろうと大抵「今後のトランプ氏の一挙手一投足に注目したい」というまとめがつく。そう、誰にもこの先がわからないのだ。政治経験もない、軍所属歴もない、そんな誰も読めない人間がアメリカという超大国のリーダーを務める事になったということである。

 

・日本人として思ったのは「本を読まないといけない」ということ

今日1日、様々なニュースを見ていて思ったが、専門家も皆一言目に「いや驚きました」と言い出す。つまりは殆どの論者が、今の世に対する正解を持ち合わせてはいないということだ。そして、その後には国際的な陰謀論みたいな中国・ロシアの挙動なんか議論を始めるものだから、僕らはどこまで眉につばつけて聞いていればいいのか分からない。

 

そんなのを聞いてたら、もう自分たちで国の在り方について考えなきゃいけない時代なのだと痛切に思ったのだ。その考える材料として、やはり本を読むということは重要なことだろう。思考の軸を構築しなければ、今のネトウヨやネトサヨのように感情論やヘイトだけで考えを産み出してしまう。今の世に振り回されないよう、自分自身が内容をほぼ忘れかけているけど、読み返さなければと思った本を3冊挙げる。

 

1、『資本主義に徳はあるか』 

アンドレ・コント・スポンヴィル 訳:小須田健 紀伊国屋書店 2006.8 

 

当時流行りだった「企業倫理」を扱った、フランスの思想家A・Cスポンヴィル氏の講演をまとめた単行本。雇用形態やCSR活動など「資本主義は道徳的であるべき!」という声が高まるのに対して「いやいや、企業活動っていうのはあくまで利益追求の話であって、道徳の話とは別」という事を示している。

 

何故この本を挙げたのかと言えば「経済(科学)」「法律(政治)」「社会道徳(規範)」「愛(倫理)」という思考のステージ分けを見事に行っているからである。分かりやすい例として「親が子を大切に思う心」「雇用主がちゃんと給与を労働者に払うべき」というのは、上記どの分野で説明がつけられるべきか、という話だ。雇用主は愛や道徳で労働者を雇うのか。また親は法律や科学仕組みで子を愛するだろうか。それにはしっかりとした秩序の区分があるだろう、という指摘は鋭い。

 

トランプ氏は種々過激な発言をしてきた。それに対して「この人は今、政治の話をしているのか、はたまた経済の話をしているのか。そして不快に思っている自分の意見は道徳規範に基づくのか、倫理的感情なのか」と見極める必要が多分に出てくる。この4つの秩序分けによって我々は、氏の発言にいちいち紛動されることなく、政策と彼の私情とを分け、世界情勢に対して冷静な分析を行えるようになるのではないかと感じたのである。結構読み応えあったはずなので、少しずつ読みたい。

 

2、『新・ゴーマニズム宣言SPECIAL 戦争論』 小林よしのり 幻冬舎 1998.6

 

正直、小林よしのり氏というのは反感を買う感じはしている。「やっぱしアメリカが守ってくれなくなったからって、あからさまに自衛しろって論だろ!?」という意見も分かる。しかし、今回読み返したいと感じたのは「戦争の理屈」を改めて考える為でもある。何故日本は過去に戦争をしたのか、その正当性はどこにあったのか。そして、アメリカは本当に日本の目を覚ましてくれた「正義の解放者」だったのか。

 

僕はこのシリーズを中学生時代に読み、正直かなり衝撃を受けた。それまで教科書では「戦時中の日本はアホ。戦後になって平和の道を進み賢くなった」という印象がかなり強かったのである。それに対して初めて「日本にも戦争をする道理はあった」という史観の存在を喰らった。そう、思考停止で歴史の知識を詰め込む勉強から「なぜそうなった?」という歴史検証への思考へステップアップさせてもらったのが本書なのだ。

 

鵜呑みにするとまたそれは厄介なのだが、随所に光る描写がある。特にシリーズ3作目では東京裁判におけるパール判事の役割や、「パトリオティズム」と「ナショナリズム」の差異を明確にする場面がある。城山三郎氏の『落日燃ゆ』などにも通じる場面もあり、知らずに単なる「右翼啓発マンガ」と切り捨てるには勿体ない。日本人として独立した考えを持つ為、また固執した米国依存に疑問を呈するには十分な本だと感じる。

 

3、未来化する社会~世界72億人のパラダイムシフトが始まった~』 

アレックス・ロス 訳:依田光江 2016.4 ハーパー・コリンズジャパン

 

今年度のはじめに発刊された本書。国務省長官だったヒラリー・クリントンの上級顧問として働いた著者が、世界中を回る中で見てきた知見を活かし、今と未来に関する分析を行っている。内容としては、ロボットの発達やゲノム技術による医療の先進化、今流行りのフィンテックなど多岐に渡る分野において、これからの世界情勢を予測するというものだ。

 

実際、扱っているトピックス自体はネット上などで見る話と正直代り映えはしない。GIGAZINEなんかでもよく見たりする話題である。しかしながら、実際に政府で働いてきたその経験則と公共政策から見るその視点、そしてタコツボ的でなく包括的に情勢を俯瞰する視野は、ネット上のコラムにはないリアリティが感じられる。アメリカの大統領というキーパーソンも、時代の要請には巻き込まれていく。今の国際情勢という枠組みをさらに包括するフレームワークを考える事で、一挙手一投足以上のその先を考えるには必要な知識がこの本にはあるといえるだろう。

 

またメインはアメリカに関する報告であるが、アジア地区についての指摘も鋭い。日本における女性の管理職比率が非常に低い事を例に挙げ、こうした旧態依然とした社会システムはこの先、社会全体の生産性を下げる事にも繋がると警鐘を鳴らしているのには感服した。すべては対岸の火事でなく、世界各国の視野に立った情勢であり、いつかは我が身であるという見方を学ぶことも出来る。

 

 

という感じで書いてきたのだけど、正直自分もかなり忘れている部分が大きい。いや、一度はちゃんと読んだんだよ。ほんとに。ちゃんと読み返そう。うん。

 

でも今回の選挙結果を経てもう一度。日本人っていうのは、自分たちの発想を洗いなおさないといけないのかもしれない。人口減、景気後退、そこに加えてアメリカの体制変更。「政治?興味ない」「議員なんて誰がなったって一緒でしょ」と匙を投げていると本当に東京五輪の先、世界の秩序すら変わっているかもしれない。政治家になれとは言わないし、僕もなりたくはない。でも、この先を考えなければ。多分、結構ヤバい気がする。