わがはじ!

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林原めぐみによる岡崎律子トリビュートアルバム『with you』を聴いて

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世間もすっかりGW。この頃になると海の話題も聞こえてくるが、まだ春の陽気を迎えた気分。もう少しだけほんわかした天候を楽しみたいと思ってしまうような気候が続いている。

 

今年の5月5日、アニメ作曲家として知られた岡崎律子氏が敗血症ショックによって亡くなってから早いもので、13回忌となる。そして昨日5月3日に、タイトルにある通り人気声優の林原めぐみ岡崎律子関連楽曲を集めたトリビュートアルバム『with you』を発売した。今日はそれを聴いて思ったことを書き残していきたい。

 

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聴けば新録がメインというわけではなく、過去に岡崎律子から提供された楽曲や音源を集めて再構成したアルバムという位置づけである。それでも、今回林原めぐみ含めキングレコードがこのトリビュートアルバムを手掛けた気合は、並々ならぬものがある。まず目を引くのが、長崎の軍艦島で撮影されたジャケットデザインと封入されたブックレット写真集。この軍艦島こと端島は、岡崎律子の生まれ故郷なのである。この時点ですでに林原めぐみがある種の覚悟を持って、今回の制作に挑んでいる気概を感じる。

 

またその覚悟を文章でも直接読むことが出来る。僕自身最近、itunes等を使って配信で音源を購入する機会の方が増えていたが、今回は久々にタワレコでCDを購入した。というのも、歌詞カードの合間に林原めぐみのロングインタビューが掲載されていたからである。その文中、上記の軍艦島での撮影についても「ピンポイントでのスケジュール、当日が晴れるか賭けだった。」「もし何の問題もなく上陸できたなら、こういうアルバムを作ろうとしていることが許されたんだと、勝手に思うようにしていました」というコメントを残している。そんな意思からは、亡くなって13年、未だに岡崎律子という存在を引きずりながらも活動を続けていた彼女の心中が垣間見える。果たして林原めぐみに、ここまでの感情を残す岡崎律子の存在、そして楽曲とは一体どのようなものなのか。僕個人の身勝手な考えを述べていきたい。

 

・「物語を造る」音楽の力

岡崎律子はデビュー以来シンガーソングライターとして活動しており、もともとアニメ作曲家ではなかった。彼女がアニメの世界で仕事をするきっかけは、林原めぐみへの楽曲提供であった。1作OVAを経て『魔法のプリンセスミンキーモモ』でOP/EDを手掛け、その後は『フルーツバスケット』『ラブひな』『シスタープリンセス』といった作品の楽曲提供でアニメ作曲家として一気にその名を広めることとなる。同時に自身のウィスパーボイスも魅力で、『フルバ』の『セレナーデ』や亡くなる直前『プリンセスチュチュ』のOPソング『Morning Grace』などでは彼女自身の歌声が存分に楽しめる。

 

それぞれ実際聴けば名曲には違いない。しかしながら、彼女が登場したのは90年代のアニメシーン。他の有名どころを見れば『幽遊白書』『セーラームーン』など、アニメ楽曲といえばそのアニメの顔であり、曲調はやはりキャッチーにしたくなるところ。その中で、岡崎律子作品はどこか浮いている。物憂げな曲調、それでいてまっすぐに前を向いた歌詞。他のアニメ作曲家と比較すれば「異色」であったことは間違いないだろう。確かに、過去携わった作品を見ていても、多産というイメージではなく、参加作品数は限られている印象を受ける。しかしながら、もともとそのアニメの為に岡崎律子が存在し、また逆に岡崎律子の為にそのアニメが存在するかのようなアニメと楽曲との親和性は、菅野よう子梶浦由記といった今を代表する作曲家たちを凌駕するほどのモノがある。

 

敢えて『シスター・プリンセス~リピュア~』を挙げるが、主人公に突如12人の妹ができるというギャルゲー史でもぶっ飛んだ傑作においても彼女の才能は光る。12人の妹のゲームEDをそれぞれ全曲担当。そのキャラに合わせた曲調・歌詞の作りこみは半端じゃなく、序盤そのトンデモ設定を笑っていたはずが、油断して感動のラストを迎えたりする。当然、シナリオも良いのだが、彼女の曲が流れだすと自然に自分の感情も昂る。それぞれ決して強い曲調ではない。ただ、自分がプレイしてきたそのキャラにきっちりハマるのだ。その物語を再構築するような彼女の世界観は他者に追随出来ないものがある。

 

・悩み多き人生をまっすぐにとらえること

アニメとの親和性が高く、キャラにマッチした楽曲。これはどのように作られるのだろう。単純に考えれば、アニメの世界観をトレースする作業のようにも感じるが、やはりその根底にあるものは岡崎律子自身の人生に対する深い洞察と希望を持つことへの模索そのものであると感じてしまう。アニメの楽曲提供であろうが、自身のオリジナル楽曲であろうが、その歌詞には彼女自身が抱いていた悩みが色濃く影響している。例えばウルフルズトータス松本氏が、ポジティブな歌詞は自分を励ます為のものと言っていたように、岡崎律子もまたその時々で悩んでいたこと。それに対していかに解決したのかを歌詞に載せることが多い。(彼女のHPは数年前まで残っており、当時の楽曲作成の際の心境などが書き記されていた。)

 

例えば、今回のアルバムにも収録されている林原めぐみへの提供曲『Good Luck!』では、日々街中で感じる孤独に対して、きっと誰にだって輝くチャンスはあると励ます。しかしその際「でも待ってちゃ来ないから 自分を旅立たせて」と最後にエクスキューズを付ける。この実感の籠った1行こそが彼女の魅力だと言える。また堀江由衣への提供曲『笑顔の連鎖』では、好きな人と関係が悪くなったとしても、絶対にまた元に戻れる、それは運命だから。そう言っておきながら「でもその時どのカードを選ぶかが大事 曇らぬ笑顔でさあ幸運を呼ぶの 引き寄せて」と能動性を付け加える。

 

先に彼女の曲はアニメ作品との親和性が非常に高いという話をしたが、それは楽曲自体が持っている物語性と、アニメ作品の物語性のリンクに要因があると感じる。アニメは普通、1クールの間、その展開に山があれば谷もある。キャラクターがそれぞれの苦悩や壁を乗り越えて終劇に向かっていくわけだが、岡崎律子楽曲はまさにその紆余曲折が歌詞の中に内在している。そして、想像ではあるが、岡崎律子自身が人生で感じたリアルな悩みと葛藤、そして抱いた希望をアニメの楽曲に憑依させていたように映る。自身も自分の曲を歌うシンガーソングライターだからこそのやり方であるように思える。(これは恐らく日向めぐみあたりも同様かと思われる。だからこそメロキュアというデュオがマッチしていたのではないかと勝手に思っている)『フルバ』で感じた『セレナーデ』の異常なほどの歓喜と切なさは、アニメという作り物を、人生という現実に落とし込む、地道で実直な手法から生まれるものだと思う。あくまでも、創作を創作の為に行うのではなく、人生の悩みや苦悩と向かい合う為に生み出された曲だからこそ、我々はそのひとつひとつに感動を禁じ得ないのだと今回感じた。

 

林原めぐみによって蘇る岡崎律子という輝き

そして、今回のアルバムに話を戻そう。収録曲の中で、この『with you』の性質を特に示し、取り上げなければならない曲は、やはり『For フルーツバスケット for Youth』であろう。原曲ではメランコリックな情緒が美しく、実にロマンチックな『フルバ』OPの名曲であるが、本作では大胆にもポップなアレンジでの新録となっている。マンドリンバンジョーを使い、また打ち込みを加え、これまでとは全く違った曲の雰囲気に仕上げている。林原めぐみはこのことについて、インタビューの中「これまでのファンにとっては冒涜と言われる危険性もありましたが、それも覚悟の上です」とした上で「この方(岡崎律子)を新しい世代の人にも伝えたかったから」と今回の作品での覚悟を改めて提示していた。

 

ファンからの批難も覚悟の上。でも、たぶん岡崎律子なら「それも<らしい>と言ってくれる気がして」と明言している。なくなって13年、これまでのある種「神聖化した岡崎律子像」を残すのではなく、これからも生き続ける岡崎律子楽曲、リッツソングに励まされた分、若い世代にも広めていきたい、という非常にポジティブな感情をその一端からうかがい知ることが出来たことが僕は只嬉しかった。僕もただのファンとして。岡崎律子という作曲家を失って大きなショックを受けた。7回忌の際には、稚拙だが自身の同人誌で全アルバムレビューなどを行った。彼女の存在が周囲で忘れられるということが嫌だったし、特に特集記事を組む音楽雑誌を見つけることもできなかった。それがなんだかとても悔しく、自分で行動するしかないと思った末のあがきであった。

 

今回のトリビュートアルバム発売は、未だに喪失感を抱き、音源を聴いてはふと昔を振り返り「あの頃はよかった」と言って老害になりかけていた自分を、改めて林原めぐみが歌う岡崎節で叱ってくれたようである。もう一度、今を生きる岡崎律子という存在を自分の中に見つけられた気がする。林原めぐみに関しては、今年中野サンプラザでの初ライブも話題となり、そのセットリストも今から喧々諤々の議論がネットでなされているようである。果たしてそこに岡崎律子楽曲も入るのだろうか。ファンとしてはうっすらとした期待感を抱きながらその全貌を待ちたい。

 

 

以下、6年前に頒布した同人誌の該当記事の箇所をピックアップした画像を載せたツイートである。せめて13回忌となるこのGWの間くらいは掲示してみたいと思い投げてみた。学生時代ということもあり、やはり拙い内容ではあるものの熱量だけでも残すことが出来れば。時間がある方はぜひ覗いてみて頂きたい。