わがはじ!

めんどいオタクのブログ。同人誌もやってるよ。

この春同人ファンに薦めたい「金腐川宴游会」というサークル

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そろそろGWが近い。様々なイベントが目白押しなわけだが、こと同人オタにとってもなかなかスケジュールが詰まる時期でもある。コミティアやCOMIC☆1など大きいイベントから、ニッチなオンリーまで。その数、今週から5月の連休の終わりまで調べてみるとどうもその数およそ900という。華やかな行楽シーズンのその裏で、全国津々浦々にて薄い本が売られているという状況がこの国の実態である。あな恐ろしや。

 

そんなイベントのひとつ、同人ファンには既におなじみになってきた文学フリマ東京が、東京モノレール沿い流通センター第二会場にて、GWもラストの5/6(日)に開催される。

文学フリマ - 第二十六回文学フリマ東京 開催情報

 

自身も過去1度、サークル参加させて頂いたことがある。イベントの趣としては「文学」と冠している通り、結構しっかりと文学。一応文章系である弊サークルとしては、浮かないまでも、やはり「ちょっと場違い」な感を受け、その後参加を続けることはなかった。むしろ当日、誰も人員を確保できず単身サークル参加ということもあり、なんていうか寂しかったというのが大きい気がする。なかなかね。5月って心折れやすいからね。

 

ただ、その参加自体を後悔したかといえばそんなことはない。大きな収穫を得たからだ。それこそが、その時お隣に配置されていたサークル「金腐川宴遊会」さんの存在である。出会いは簡単、単身参加で買い出しにも行けず、お腹がすいた僕を憐み、宴遊会の皆さんがおにぎりをくれたのである。なんていい人達だ・・・そう思いながら新刊交換なんてしてしまったが最後。その本の魅力に一発で心奪われた。

 

前に評論・情報系サークルのレビュー記事を書いたときも、ピックアップさせて頂いた。

www.wagahaji.com

 

ただ、それでは足りず。「この面白さ、誰かに伝えたい」ひとりで勝手に盛り上がってしまい、5/6(日)に文学フリマ東京に参加される「金腐川宴遊会」さんの『二級河川』シリーズの魅力について、今回は滔々と漏らしていきたい。

 

・ニッチという言葉が陳腐になるほどの「間隙」

二級河川』の基本コンセプトとしては、色々な方が執筆、あるいは対談・座談会を行った文章をぶち込んで出来上がった雑誌シリーズだ。文学フリマで一緒になった際に伺った話では、元来サークルのメンバーで身内に配るだけのミニコミ誌だったようだ。文学フリマが皆さんの地元金沢で初開催という時に同人誌として頒布開始。なので、一般読者として入手可能なナンバリングはVOL13以降(在庫次第)となる。それ以前の特選集『二級河川リサイクル』も素晴らしいので是非見つけたら手に取ってほしい。

 

予備情報はここら辺にして。それにしても、本誌が圧倒的なのはやはりその内容と質量である。一冊丸まる歴史教科書の「注釈欄」のようなサブ的空気は圧巻の一言。現代はネットによって「調べれば何でもわかる」というほど、情報とそのアーカイブに満ちている社会である。ただ、その中でも終ぞ漏れることがなかった「需要なき貴重な情報」で本誌は満ちている。

 

僕が好きな記事のその一部の一部だけ紹介してみたい。

 

<VOL.16>特集「翔べ!グルメうらごろし」より

「読んだ気になれる!『美味しんぼ』全話100文字レビュー【前編】」

グルメマンガ特集の中のお気に入り記事。2016年の3月に『美味しんぼ』が大団円にて終了か、というニュースを受け書き出したはいいものの、即終了撤回を受け筆者のテンションがちょっと下がっている事が想像できる。更に「筆者の精神状況やモチベーション等の問題もあり、ところどころ嘘の記述が混じっていますのでご了承下さい」という注釈にも思わず吹き出す。それでも、文字で埋められた6Pからは確実に『美味しんぼ』の痛快かつキチガイ染みたエッセンスに溢れている。細かい文字を辿っていると筆者の虚言なのか、単純に本家『美味しんぼ』のヤバさなのかわからなくなり、その交錯すらトランスとして楽しめる。今回は40巻までの【前編】とあるが、今のところVOL17・18に【後編】の影はない。『美味しんぼ』のゴールと共に待ちたい。

 

<VOL.14>特集「宗教漫画」

・「教祖を描いたマンガたち」

この尖りきった特集の冒頭を飾るに相応しい素晴らしい文章。コミケの評論島でも宗教パロもの・宗教系情報同人というのは結構探すと見つかる。ただ、往々にしてその色がオタ的嘲笑の的にされていたりするので、なんとも言えない感情に占められることが多かった。ただ、この記事。絶妙なバランス感覚と圧倒的な知識量をベースにしている事が読めばわかる。立正佼成会やオウム、幸福の科学創価学会、それら団体をどうきり取ったマンガなのかを明確に示し、まずマンガレビューとして成立しているのがすごい。この扱いにくい類の特集を一つの文章で雑誌一冊まるまるきっちり整列させるような、ある種モノの見方を教わった気がする名記事。

 

<VOL.18>特集「地獄・極楽懐ゲー攻め!」

・「「明日やろう」はストバスヤロウ-虚無作品『ストバスヤロウ将』の全貌」

懐ゲー特集の本誌。その中でも、完全にぶっ飛んでる文章がこれらである。前者『ストバスヤロウ将』いや、この記事を読むまでその存在すら知らなかったゲーム化もされたジャンプ漫画。でも連載時期を見ると93~94年『DB』『スラダン』も佳境で「え、なんで知らないんだろう」って思ったほど。ただ、記事を読めば読むほど納得するそのマイナーぷり。「決して本作はクソ漫画でもクソゲーでもない純粋に面白くないだけである。」という言葉の辛辣さには笑う他ない。

 

・「『燃えろ!!プロ野球』調査隊 2017石川ミリオンスター編」

後者は野球ファンゲーマーではおなじみのクソゲー『燃えろ!!プロ野球』を地場石川県の中古ショップをめぐりひたすらゲットする狂企画。当時の販売ヒット規模と、その後の評価の失墜を踏まえると中古市場にたくさん出回っている事が伺える本作。この記事では、核戦争後を描いたゲーム『Fallout』において、通貨が戦前のコカ・コーラの王冠が使われていることから、リアルに存在する我々も何かの荒廃を受けた後に通貨となるものを探そうということで、浮かんだのが『燃えプロ』。その通貨集めの一環も兼ねてという企画ネタは、なかなかに常軌を逸していて大変好感が沸く。

 

二級河川リサイクル>(同人誌化以前の特選集)

・「エレクトリック・サンの世界」

僕がこの『二級河川』にほれ込んだきっかけともなった傑作記事。エレクトリック・サン、つまりゲームメーカー「サン電子」の過去作品を元ネタに70年代サイケバンドのディスコグラフィー調に紹介した嘘音楽記事。知らない人が読んだら本当にそうだと思い込むような密度と、その嘘の鮮やかさは一級品。何がすごいって懐ゲーのハイレベルなパロを『ストレンジデイズ』とか『レココレ』あたりの通好み音楽雑誌のパロに乗せるという二重パロ。双方の知識と記事を書く上での文脈の編集力が求められ、ネタを完遂すること自体に驚く。その実すべて嘘という意味では「中学時代とか洋楽の音楽雑誌って実は分かった顔して読んでるヤツ多かったよな」という皮肉まで詰まっていそうで、考えるほどメタすぎる記事。内容については、キリがないのでここらへんにしたい。

 

 

これ以外にも、戦前出版関連情報、競馬、セパタクロー、SCP財団、JR鶴見線・・・・正直気付いてほしいんだけど、ほんとにこんなような怪しい記事が所せましと訳わかんない密度で掲載されている同人誌って他にないんですよ。自分が親の立場なら子供に見せたくないような、そんな本。

 

今、評論同人誌は見た目もキレイ、特集もグルメやデザインなど読む側にもキャッチーってことで、各方面から案外スポットが当たっているジャンルだとは思う。自分自身もその一端として、何とか読みやすいものをとか思いながらシコシコレイアウトを考えているわけだけど。

 

そんな中、企画ドーン!!情報ドーン!!文字数はページ割り振り次第!!おもろいやろ!!みたいなストレート同人雑誌は本当に貴重だと思う。僕自身、このシリーズと出会って「あぁ、やっぱ同人誌って本当面白いな」と久々に思えたのは確かだ。出版不況によって、色んなアホみたいな企画の本は恐らく作りにくくなっている。本当の意味で「面白いもの」が紙媒体から全国流通される機会も今後恐らく少なくなるだろう。

 

そんな時代に、やはりこうした同人誌の持つ力というのはバカにならない。我々の知識やバカネタは、ネットに漂っているものだけじゃない。ネットすら一般インフラとなった昨今、そこにも浮かばないアングラ層に、まだまだ沢山面白いものはあって。そしてそれを探す余地は依然として残っている。そしてそれらを探し出し、共有するでもなく(しちゃったけど)ひとりほくそ笑む事こそオタクの愉しみだ。「モノ消費からコト消費へ」オタクだってその時流に逆らえない。何かを保有すること自体に意味がなくなり、すべてがオンライン化する中で。再度、本当に面白いモノを求める事について考えさせられた日曜でした。

 

ということで、改めて「金腐川宴遊会」さん、ハードル上げちゃいましたが、文学フリマ行かれる方、お勧めです。