わがはじ!

めんどいオタクのブログ。同人誌もやってるよ。

人生がわからなくなった時に読む個人的処方箋マンガ選

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気づけば令和。前回から続けようと思っていた話題は、プロットが大きくなりすぎて一旦お休み、お茶濁しと文章を書くリハビリを兼ねて、久々にサブカル系を中心に漫画レビュー記事でも書きたくなりました。各作品「処方箋」ということで短めです。

 

・「わからない」ことが「わからない」ときに読む漫画

学校の授業や勉強をする上で一番の末期症状がこれだ。「わからないところがわからない」果たしてどこから手を付けたらいいのか、そもそも何を聞かれているのかもイマイチぴんと来ない。ていうか「わかる」ってなんなんだ。僕も過去、高校時代の数学でこの沼に陥ったことを思い出しては、鼻の奥がツンとなるような心地がする。

 

そして現在。時代も平成から令和へ。僕自身も三十路に突入、増える白髪、遅くなる筋肉痛、随所に現れる老化現象を逐一見ないふりして日々を過ごしている。そんな中、最近再びこの「わからないところがわからない」現象に見舞われている。うん、そう、人生で。

 

経済的なひっ迫、現在の仕事、趣味、結婚、家族・・・油断すればユニコーンヒゲとボイン』の「仕事とはなんだ、人生とはなんだ」という一節が頭の中を延々ループしている。新時代、いったい何から手を付ければいいの。

 

まぁ、こんなことを考えだすということは大概暇なのであり、せっかくのGWだし、ぐーたら漫画でも読もうじゃないか。ということでそんな「人生のどうしたもんかなぁ」と思った時、僕が処方箋的に読んできた漫画を簡単に振り返って紹介してみたい。毎年、夏コミ作業詰めのGW。今年は、お休みしたことによりなんだか落ち着かない。そんな手持無沙汰さを、そんなレビューをもって共有させてほしい。

 

・『西洋骨董菓子店』(全4巻)よしながふみ 新書館

www.shinshokan.co.jp

ふと諸々、人生が重くなってきた時に読む安定剤みたいな漫画。思えば、前時代では椎名桔平藤木直人滝沢秀明阿部寛という豪華メンツでドラマ化もされた本作。イケメン4人が小さな洋菓子屋で働くよしながふみの真骨頂みたいな話。もちろん同性愛はのっけから物語の核心になってくる。

 

往々にしてよしながふみ作品は顔がいい前提で話が進むので、そこはご愛嬌なんだけど、それにしたって、登場人物各人の人生の機微を過去から現在まで、短いながらきっちり描いてしまうのはさすがの一言。基本線日常系でありつつ、それでいながら、本筋にはミステリの要素なんかも加えちゃって、とっちらかるかと思いきや、まとまりのある全4巻。

 

同性愛関連の話が非常にフラットに設置されていたり、登場人物の重たい過去が比較的軽妙に描かれていたり、オムニバスに近い展開もあって、いい意味でストーリーを押し付けられない感が心地よい。サラッと重い話が続出する度「そうだよな・・・人生の問題って案外悲劇としてでなく、オフビートに進むよね」と納得し、悩みが軽くなるような気がする。ほんと、よしながふみって人生何週目なんだろう。とはよく思う。

 

・『雑誌『ヨミ』』(『白い狸』収録)横山旬 エンターブレイン

www.kadokawa.co.jp

コミックビームで『変身!』を連載していた横山旬の短編集。表題の『白い狸』は、まさに筆者の得意分野という感じの読み切り伝奇ミステリ。こちらも好きなんだけど、これに収録されている「雑誌『ヨミ』」という短い漫画が僕にとってのカンフル剤的処方箋だ。

 

話の筋としては、中学3年の受験前。主人公と友人Aで雑誌制作を思いつく。学校の「一物抱えた」人間に声をかけ、原稿を募るという同人誌作成の話だ。最初は面白そうと進めてみたものの、編集から原稿集めなどに苦慮し、受験を控ながら「なんでこんなことしてんだろう」的葛藤を抱える。それでも最後、表紙を頼んだ知人から完成した絵を見せられた瞬間、その出来に感化を受け「本にしなければ」と思い新たにし、完成にまでつなげるというひと夏の青春群像。

 

見た通り単純ではあるものの、横山旬の独特な絵柄に完全に心を掴まれて仕方ない。そして、僕が続けてきた同人誌作成の流れとほとんど一緒で、僕自身「なんでこんなことしてんだろ」と沼にはまりそうな時、完成へのモチベーションを思い出させてくれたりする。集まってきた話や原稿を見つめなおし「あぁ、これ世に出したほうがいいな」と。結局、完全に一人よがりなんだけど、何かものづくりを行うことなんて詰まるところ一人のエゴで十分なんだなと、毎度教えてくれる貴重な作品。

 

・『変身のニュース』(短編集)宮崎夏次系 講談社

kc.kodansha.co.jp

当時気になる絵柄ということで、手に取ったら久々後頭部殴られたような衝撃を得た本作。他の作品も好きなのだけど、最初に読んだ宮崎夏次系作品ということでこの1冊を挙げたい。

 

処方箋、ということでピックアップしているが、結構強いオクスリという感じ。漫画や小説を読んでいて「これ書いてる作者、大丈夫かな」と心配することがたまにあるけれど、その筆頭。人間が生きていて、ふと感じる「もうイヤ」みたいな感情を、無表情なキャラに語らせ、その人生を捨てる瞬間を、あまりに軽く、ファンタジーとして描いちゃう。この短編集では、直接「死」という帰結には繋げないが、そんなおとぎ話的救いが逆に恐ろしいくも、儚い。

 

1冊通して、我々が日ごろの生活でふと抱く絶望の先を「はい、こんな感じ?」と示してくれているような印象を受ける。だいたいあってる。あっているが故に狂っているし、そしてその狂気には、希望だとか安心も宿っている。日常的に過ぎていく日々が、たまにあまりに不条理に感じる時。僕は改めてこの本を読みながら、ちょっとした安心感を得るのだと思う。

 

・『G戦場ヘブンズドア』(全3巻)日本橋ヨヲコ 小学館

csbs.shogakukan.co.jp

個人的に一番、即効性があり効果があった処方箋と言えるかもしれない。漫画家を目指す漫画は、いろいろ作品はあるのだろうけれども、3巻完結ということもあり、ここまで熱量の密度が高い作品も他にないだろう。何かが詰まると、粛々と読みだしてしまうほどにはお世話になっている。

 

こちらも短いゆえに話の筋はそこまで複雑でない。ただ、2人の主人公を置くことによって、創作に対するそれぞれのスタンスを書き分け、そして大団円では1本の線に紡いでいくその過程は何度読んでも鳥肌が立つ。そして、本作でのキーパーソン、漫画雑誌編集長、阿久田が言う「誰も生き急げなんて言ってはくれない」というセリフ。数々の漫画のセリフの中でも、人生訓としては、非常に重たく、またその通りな一言。

 

創作という道自体、普通に生きて得る幸せを放棄することと宣言しながらも、ラストでは様々な問題や葛藤を超えて、2人は漫画の道に至る。そこまでの覚悟がお前にあるのかと問われれば、めっそうもないです・・・と消沈するのが常なのだけど、趣味だとしても何かを作る、書く、発表する、その重たさと価値を感じさせてくれる作品。高校生とか、本当に読んでほしい。

 

・『ファミリー・アフェア』(『おかえりピアニカ』収録)衿沢世衣子 イーストプレス

www.eastpress.co.jp

短編集を主に主軸に活動している衿沢世衣子という漫画家。どの作品も瑞々しい感受性で描かれており、しがらみながらも、嫌味のない人間関係は彼女にしか描けない独特な空気感がある。そんな中で、本作もカンフル剤的に、自分の歩く方向を確かめる際に読む1本がこの作品である。

 

原作はよしもとよしともだが、衿沢世衣子の作品集にキレイに収まっているあたり、話の筋としても親和性が高かったと想像がつく。ごく普通の家庭が、父親の会社の倒産を機に過渡期を迎える。引きこもりの兄、女子高生の姉、主人公は小学生女子で「こどもだから分からない」と家族の問題にも目を背けている。ただ、両親の関係含めて少しずつ、家族が自分の道を歩み始める。その過程が丁寧に描かれている。

 

その中でも「何かに夢中になっていれば他のことなんてどうでもよくなる」「一番大事なのは自分で決めるってことさ」というセリフが象徴的に使われるが、日ごろのノイズが多い生活の中で、迷わない指針がここにあると読み返すごとに痛感する。本作品集通して、大人になりかける子供の話が多い。我々がとうに忘れた「大人になる自分に何を感じていたか」ふと思い起こさせられるようで、背筋が伸ばされる心地になる。

 

 

 

ということで、とりあえず簡単に挙げてみた5冊ほど。こういうレビューテイストは、まぁ、ふとした感情で書けるのでたまにはいいもんだなと思う次第。ということで、自身も挙げた漫画を読みつつ、徐々にやりたいことに向けて頑張っていかねばと気合を入れ始めたい。季節の変わり目に体をやられないよう気を付けなければ。