わがはじ!

めんどいオタクのブログ。同人誌もやってるよ。

COMIC ZIN振込の件から現在の「サブカル書店」の在り方について考える

新しい年となり半月ほど。すっかり2019年の空気に身体も慣れてきた頃かと思ったら、突然38度の熱を出し、お腹から色んなものが射出された先週。朦朧とする意識の中「このまま死んだら、ゾンビになってアイドルになる」などと譫言を一人言っていたものの、なんとか生還。佐賀に行くのはまたの機会にしようと思いました。

 

そんな折、自分が呟いた案件から多少議論となった件について、ここでちょっと考えをまとめたくなった。それはCOMIC ZINの振込問題である。詳細は、こちらtogetterにて纏めてくださっている。それにしても真面目な話題なのに「すくみづさん」という呼称、自分でもどうかと思う。

togetter.com

ニッチなジャンルの同人誌取り扱いで知られるサブカル書店であるCOMIC ZINさんに、当方も数年前より委託販売をお願いしている。しかし、昨年度夏以来、同社システム障害の影響から、売上金額の振込がなされないという事態となっていた。諸々、周囲の同人作家あたりに話を持ち掛ければ、対応に差はあるものの、どうも自分だけではないようで。先方からの事情説明もなく、しばらく猶予期間として待っていたものの、さすがに新年にもなったということでツイートや先方への問い合わせなどアクションを起こしてみた、という具合であった。

 

早々に先方からは、謝罪や今後の対応、全面的なシステムの復旧の連絡、そして懸案だった振込もされた。おそらく今後については状態が回復したものと見られ、本件としては落ち着きつつある。

 

ただ、個人的にこのツイートを行ったのには、債権回収以外にも目的がある。なんなら諸々のツイートでは「債権」と仰々しい言い方をしたが、それほどの金額でもなかったため逆に罪悪感すら沸いていたり。まぁ、実際未払いだったから仕方ないんだけど。そんなわけで、この一連のツイート目的とそれに纏わる考え事を今日は、好き勝手漏らしていきたい。

 

・みんな「COMIC ZIN」をどう見ているか

今回のツイートが拡散される事で、期待したものは2点ある。まず1点はそのまま文章にも書いた通り、COMIC ZINに委託している同人作家で「振込がなされないのは自分だけ?」と戸惑っている人の炙り出しだ。問題の大枠を把握し、状況について当事者間で共有できればという考えである。

 

そしてもう1点。それはCOMIC ZINという書店について各位どう思っているのか、今回の件を引き金にそれを確かめてみたかったという思いがある。togetterでも見られる通り、未払いやそれに対する説明がないため信用をなくした、取引を中止したという人もいた。勿論、金銭を扱う当事者間としてそれは正しいアクションだ。ただ反面、これだけ一方的と思われる炎上事案にも関わらず「COMIC ZINを応援する人」というのが一定数現れた。お分かり頂けるだろうが、僕もその一人である。

 

今回、未払いという状況もあり、COMIC ZINの経営状況を心配する声が多く挙がった。その際、一緒に聞かれるのは「あそこでしか買えないものがあるから、なんとか頑張ってほしい」「かつて消えていった同人書店の二の舞にはなってほしくない」「ZINの平積みのラインナップが好き」など。やはり、書店そのものに付いたファンの声というものは確かに存在していた。

 

つまるところ、現在のオタク関連小売店において、同人誌に限らずサブカルをきっちりサブカルとして扱える店舗というのは非常に貴重なのだ。秋葉原の街並み一つ見ればわかる通り、今同人誌を扱っているお店と言えば最早大所の「とらのあな」か「メロンブックス」「まんだらけ」あたりが主たる小売店と言える。それ以外で何とかサブカル的な意地を保っているのがCOMIC ZINだろう。今回の件によってその価値は、ユーザーも認知するところであると逆説的に確認することができた。

 

・市場原理を意識すること

昨夏、秋葉原を題材にした同人誌を作った。僕はその中で「市場原理が支配するこの街だからこそ、文化の推移も激しく、それがこの街の面白さに繋がっている」と書いた。ただ、その通りに考えながらも、心のどこかで多少のニヒリズムを抱いていたのが正直なところだ。

 

同人誌に限った話で言えば、秋葉原には10年前ほどまで多くの同人ショップがあった。現在に至る中で淘汰が進み、ここまで集約されたと言っていいだろう。当然のことながら、店舗や企業経営というのは資本主義のルールの中で行われていることであり、上手くいけば継続・拡大となり、下手をすれば撤退となる。自分をはじめとする消費者は、そうした世の中の流れを作りながらも、同時に翻弄され続けている感を受ける。

 

そして、そろそろ思ったりするのだ。その神の見えざる手による剪定に、抗っても良いのではないかと。僕ら消費者が残したいものを残す、そんな選択をとれないものかと徐々に考え出していたという具合だ。

 

COMIC ZINから振込がなされない間、同人仲間でも未払いの件は話題に挙がったが、案外「いやぁ、大変そうだからね。待ってみるよ。」という声には何度か出会った。世代差はあるだろうが、どうしてもオタクという存在は、何かを購入するという行為に普通以上の重みを見出したりする。その購入を支える実店舗という価値は、ネット通販やデータ扱いが主流になっている現代だからこそ、反対に輝くところがあるのかもしれない。

 

・オタクならではの共助という発想

何を一介の書店にそこまで熱くなってるんだ。という反応も想像できるものの、僕がその先にみているものは、なにも一つの書店の処遇だけでない。先日、コミケスタッフに長年参加する友人と、コミケの在り方について幾つかリプライを交わす中、彼からこんな言葉が出てきた。

場を維持するってことは存外に難しく そして大事なことっす。

あまりにシンプルで、短い一言。ただ、そこに詰まった思いというものは、簡単に流せるものでは決してない。よくよく考えれば、例年開催が当たり前になっているコミックマーケットも、オタク趣味という緩い繋がりがベースにあるものの、たくさんのボランティアの存在や、参加者の意識の上に成り立っているイベントである。

 

昨今、一面的に経済効果やら参加者数など、そうした数字が持て囃されるのは当たり前かもしれないが、その根底には数字だけではない、その場を必死に残そうとするオタクらの意思が存在するのではないだろうか。

 

そして話を書店に戻そう。今回の問題や、それにまつわるリアクションを見る中で、市場原理と突き放すのは簡単だけれども、いかにそうした店や場を維持するのか、という難しさに向かい合った思いである。

 

それにあたり、まさにCOMIC ZINの同人担当、金田氏のインタビューが興味深い。

originalnews.nico

音楽についても、配信がもはや当たり前となり、CDやメディアの保有という文化からライブへ足を運ぶこと、フェスで盛り上がることが重要視されて久しい。オタク文化についても、電子書籍がより一般化したことなど同様の事が言える状況である。では、その中で書店が果たすべき役割とは何かという事になる。先から「残したい場を残す」と宣っているが、何も保護主義的になれというわけでは決してない。

 

ここからは運営のコアコーポレーションさんとまるで関係なく、身勝手かつ個人の思い付きということで付き合ってほしい。例えば言われる通り、人手不足であるならば。棚卸といった業務について、委託している同人作家に対して、コミケ同様ボランティアを募ったりするのはどうだろうか。社会人なのでバイトをするわけにはいかない人が多いだろう。案外、別途書籍購入の値引きといったインセンティブを設ければ手を挙げる人もいるかもしれない。またその際に打ち上げでも機会を設ければ同人作家同士の出会いの場にもなったり。

 

多分だが、先のライブ感という話も含め、いかにコミケを始めとする「イベントに近い空気感」を店舗として提供できるのかという事が、ネットと対峙する小売としても今後の課題になるのではないか。そういう意味において、とらのあなが趣味を媒介にした婚活事業に手を出したというのは斬新と言える。

 

また、先のとおりCOMIC ZINという立ち位置の書店だからこそ出来ることは案外あるように思える。情報系・評論系を強く扱うその姿勢は、他店と違い「そこだけでしか買えない」まさにイベントらしさを体現するコンセプトである。同時に我々も、周囲から単純に「あの企業は」と揶揄するのではなく、自ら手足を動かす面倒さをもって、店舗や大切な場を維持していく時代に入ってきているように、今回の件から切に感じてしまった次第である。

 

 

本音を言えば、昨年度からこの手のニヒリズムとどう対峙すべきか、という話は考えていて。具体的な案など出せるような頭ではないものの、飲食店や書店など「自分の好きな場所」とどのように共存していくべきなのか。そんなことを引き続き、考えていきたいと思います。長々と失礼しました。