わがはじ!

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僕らはもう一度「自分探し」してもいいんじゃないかという話~『宇宙よりも遠い場所』感想~

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すっかり梅雨らしい天気となり、雨が延々降ったりやんだりしている。そんな最中、語りたいアニメがある。ちょっと時期はズレてるかもしれないが、今更そんなことを気にする場でもない。

 

・テレビアニメでここまですごい作品が出来る時代

久々、オリジナルのテレビアニメシリーズで心底面白いと思えるものに出会った。タイトルにも掲げている通りなので、今さらいうまでもないが『宇宙よりも遠い場所』である。見た人なら同意いただけるであろう。ただ、それがどれほど「心底」な感情だったのか。まず、なんとかそれをお伝えしたい。

 

個人的にこれまでアニメ原作で琴線に触れたラインナップを挙げてみる。今年で齢30歳。そんな世代としてはやはり『機動戦艦ナデシコ』(遊撃は別扱いとして・・)『カウボービバップ』『天元突破グレンラガン』『SHIROBAKO』・・・などなど偏りはあるが、そうした所謂これまでの傑作と言われる作品群の中にぶちこんでもまるで遜色ないものだったと確信している。

 

そして、更にこれら名作を凌駕する点として挙げたいのは『よりもい』は1クールアニメだったということだ。上で挙げた作品はどれも2クール。今後続編や劇場版が作成されれば別だが、とかく1クールでここまで語りきれる構成は圧巻の一言。短いが故に隙がない。以前も評したが端的に『よりもい』を表すと「なんていうか、神回をただただ13回重ねたら、案の定神アニメが出来上がった」という一言に尽きる。まるで捨て回がないのだ。おっさんも毎話毎話、泣いていた。なんていうか、原作から作るアニメ作品で、ここまで凄いものが出来る時代になったのだと、ただただ驚いた。

 

そして今回、当該作品を見てからしばらく時間が経ってしまった。何かしらここに書きたい思いはあったものの、整理がつかなかったのだ。そして、ここで一迅社より発刊されているアニメ雑誌『Febri』6月号において『宇宙よりも遠い場所』特集がなされていた。書店で購入、早速それを読むと次第に自分の言いたかったこと、思った心象がまとまってきた。その思いをもとに今回もおっさんがただただ「よかった」と感じた点、また改めて自分の人生にも響いた点をピックアップしてみたい。

 

・「自分探し」ってどうなのよ

この作品の大筋は、ワケアリ女子高生が4人で南極に行く話だ。これだけ言ってしまうとなんのこっちゃなのだけど、簡単に話を振り返りたい。この話の主人公・玉木マリ(キマリ)は超凡庸な女子高生だ。高校生になったら「何か青春する」と漠然と考えていたキマリだが、気づいたらもう2年生に。何もしないまま、受験が近づいてくるこの「日常すぎる日常」に絶望していた、というありがちな設定である。

 

そんな中で、南極探検隊として南極に出向きそこで消息を絶った母を持つ同級生、小淵沢報瀬と出会う。彼女は「母に会いに行くため」と南極に行くと固く決意している。友達関係を無視してまでバイトに明け暮れ、その資金を集めていた。周囲からは「南極に行けるはずがない」とバカにされながらも、何とかその方法を探っている浮いた存在である。そんな折。大切に貯めた100万円を駅で落とし、キマリが拾うところからこの話はスタートする。

 

事情を聴いたキマリは「ここではないどこかへ行きたい」と一緒に行くことを申し出る。最初はお互いに本気なのか、あるいは「青春ごっこ」がしたいだけなのか、ギクシャクするも次第にその熱が同じ方向を向いていく。また更にキマリと同じバイトをしていた三宅日向や、アイドルの白石結月と出会い、少しずつ「南極」という目標が定まっていく。

 

ここまであらすじを書いたわけだが、これだけ読むとすげえ普通の女子高生ロードムービーである。片田舎の女子高生という、思い描いていた青春とはかけ離れたところから「自分探しの旅」を通して、親友が出来、本人も成長していく。正直言えば、昨今「自分探し」なんて流行らないものだろう。意識高い系学生がよくFacebookで「海外に来て、自分を知った!!」みたいな書き込みをしているのを見ていて辟易するばかりである。足元の生活を見ろ、とついつい小言を言いたくなったりもする。

 

そんな夢もないアラサーおっさんになり「自分探し」なんて、と思っていたわけだが。このキマリたちの冒険譚を見ていると「ここではないどこか」へ行くことが決して「逃避行」でないことに気づかされたりする。

 

・日常にない「辛酸」を舐めること

この4人の南極冒険譚は、何も「南極へ行った」ことのみが重要な話ではない。成り行きでも、自分たちが「なぜ南極へいくのか」「南極に行くためには何をしなければならないのか」そして「なぜこの4人なのか」を確かめ合いながら前に進むところが、毎話毎話、丁寧に鮮明に描かれている。

 

報瀬は南極へ一番行きたいと思っているにも関わらず、どこか短絡的で思慮に欠けている。キマリはそもそも、目的意識として「どこかへ行きたい」ほどのレベルしか持っていない。大人びた日向は人を思い遣る代わりに自分を殺してしまう。そして結月は友達の作り方が分からない。食い違っていた4人は一話一話「南極へなんで行きたいのか」という問いを介して、徐々に自分をさらけ出す事を覚えていく。

 

ただ、正直ここまでは、すれ違い⇒相互理解という他のアニメでも見ることができる友情譚である。では『よりもい』が圧倒的なのはなんなのだろうか。それは「今ここにいること」つまり日常からの「拒絶」もキッチリ描き切っている点であるように思える。それを如実に表していたのは、キマリの親友「めぐみ」のポジションである。めぐみは、キマリの幼馴染で昔から「一歩踏み出す勇気のない」「深く物事を考えない」キマリの性格を熟知していた。そんな彼女に常に手を貸し、助言を与えてきた。

 

そんなキマリが少しずつ「南極」を目指し、自分の元から巣立っていく。そこに湧き上がる妬み、支配欲。「南極なんて行って何するんだよ」「実際、いけるわけないだろ」そんな事を言うめぐみの感情は分からなくない。今この場で何もできない人間が、どこに行けるわけもない。上段でSNSに毒づいていた僕の発想と同じである。ここではないどこか?自分探し?馬鹿じゃないのか。と。

 

そういいながら、めぐみは徐々にキマリが恐れていた「何もない日常」に飲み込まれていく。自分は一体何をしているんだと。この作品の前半は報瀬の過去とともに、このキマリとめぐみ「日常からの分離」が大きなテーマになっている。

 

当然めぐみの言い分も正しい。その後、彼女たち4人は散々な目に遭う。海外でのパスポート紛失、圧倒的な船酔いから悲しい過去との対峙。その場に留まっていれば、何も味わうことのない辛酸ばかりである。ただ、やはりそうした「辛酸」を味わうことで、人が感じた「辛酸」にも共感できる。そしてそのようにして得た辛酸は必要なものである、と自覚することこそが「自分探し」という行為の本質のように思う。

 

身の回りにあふれるものが、自分にとって必要なものとそうでないものを仕分けること。本作でも中核をなすテーマに思える。学校へ行かなくなった日向の過去のエピソードもそうした意味で痛烈だ。中途半端に許しあう友情なんか要らない。自分だけが楽になる和解なんか嘘だ。不器用ながらもお互いに感じる痛みに対して、敏感に正面から、本当に必要な「関係性」を選び取る彼女たちの邂逅には頷くほかなかった。

 

・「夢中になると必要なものとそうでないものが分かってくる」

衿沢世衣子『おかえりピアニカ』というオムニバス漫画単行本に入っている『ファミリーアフェア』(よしもとよしもと原作)という作品の中のセリフだ。その後「一番大事なのは自分で決めるってことさ」と続く。昔から僕はこのセリフが好きで、毎度何かがあるたび頭の中に浮かべているわけだけども。『よりもい』を見ていて感じられたのは、こうした自分の価値観を知り、取捨選択をする難しさと重要性だと思う。

 

終盤。報瀬は南極に初めて降り立った時「ざまあみろ!!」と叫んだ。それはこれまでバカにしてきた、学友や周囲の人に対する心からの叫びであったに違いない。しかし、本来「母に会いに来た」はずの彼女は徐々に虚無を抱えることになる。南極到達は達成した。しかし、もうそこにはいない母親。終盤から最終話にかけて、報瀬は自分の過去と固執と戦う。そして周りの3人とともに「今自分が夢中になっているもの」に目を向けだす。

 

ラストシーン。報瀬はオーロラの下、本当に大切な何かは、今自分の目の前にあるものだという気づきを得るように見える。それは文面だけ見れば「自分探し」を否定した「日常賛歌」の言葉と同じである。ここではないどこかなんてあるはずがない。今目の前を見ろ、と。

 

しかしながら、日常から離れた場所での「今、そこにあるもの」は恐らく、違う。まったく異なる次元での日常が目の前に広がる。それを見るためにはやはり「ここではないどこかへ」行かなくてはならないのかもしれない。恥も外聞も保身も捨てて、最後のシーンのめぐみのように。ちょっとしたことから「どこかへ」踏み出すことの重要さを、教えてくれた傑作アニメだった。

 

 

また平日夜から長々と書いてしまったが、おっさん風情がこんな中二全開な文章書くのも正直恥ずかしいものである。それでも、過去好きだった作品なんて、大抵そんなものだしちゃんと好きなものには好きと言い続けたいなと、そう思わせてくれる良作だったことは確かです。見てないひとは是非見てみてくださいな。